『ふたりの宝物』
君と出会ってから
いろんなよろこびと
こもれびのようなやさしさと
かぞえきれない楽しみと
たくさんの元気と
あたたかい時間をもらったよ
それはぜんぶ…
いつまでもふたりの
大切な宝物だね
私は忘れていたものを少し思いだした気がした。『ただいてくれるだけでいい』と言ってくれた夫の本意が、ここにはあった。彼が望むのは死にゆく私ではなく、イキイキとした私らしい私。『こうであるべき』とか必要なかったんだ。
これは私が半年ほど前に、mixiの日記に、当時の自分の状況と理想の将来像を、童話という形を借りて書いたものだ。ある友は訳がわからなかったようで「どこか違う世界へいっちゃった?」とコメントし、ある友は「だったら私は、狼のお腹を裂いてぴーちゃんを助ける!」とコメントしてくれた。
あるところに小鳥のぴーがいました。
ぴーは誰よりも飛ぶのを早く覚え、誰よりも遠くまで飛んで行っては隣町の話を楽しく話してきかせるので、小鳥たちの人気者でした。
ある日嵐がやってきました。それでもぴーはどうしても、隣町の隣の隣のそのまた隣の町まで飛んでみたくてしかたがありません。「やめなよ!」「あぶないよ!」仲間は口々にぴーに言いましたが、ぴーは「だいじょうぶ」と嵐の中を力いっぱい飛び立ちました。
けれども隣町を過ぎたあたりで、あんのじょう突然大きな風がふいて、ぴーは真っ逆さまに暗い森の中に落ちてしまいました。「痛いよう。」どうやら叩きつけられたはずみで、ぴーの自慢の羽は折れてしまったようです。ぴーはしばらくぴーぴー鳴いていましたが、嵐でその声もかき消されてしまったのか、だれも迎えにはきてくれませんでした。
次の日、遠くのほうから楽しげなさえずりの声が聞こえてきました。ぴーが声のするほうへヨチヨチ歩いていってみると、渡り鳥たちが水浴び場でとても楽しそうに遊んでいました。
ぴーが木の陰から覗いていると渡り鳥の一羽がぴーを見つけて「一緒に遊ぼうよ。」と声をかけてくれました。ぴーは嬉しくなって、時間も経つのも忘れて、みんなと一緒に遊びました。次の日もその次の日も渡り鳥たちと遊びました。
それから何日かたつと、渡り鳥のリーダーが言いました。「さあそろそろ出発だ。」ぴーは「どこへいくの?」と聞きましたが、リーダーはぴーのボロボロの羽を見て、「お前には無理だな。」と一言言い残して飛んでいってしまいました。リーダーを追うように次々と飛び立ってしまう渡り鳥たち。
「まってー!」ぴーはありったけの声で叫びながら、動かない羽を懸命に動かして、何とか飛ぼうと暴れました。最初に声をかけてくれた渡り鳥だけが最後まで残って、いつまでもバタバタもがいているぴーに言いました。「ここらに生えている薬草を食べていればいつか羽は治るから、そうしたら仲間のところへお帰りよ。」そして名残惜しそうに、彼も飛んでいってしまいました。
ひとりぼっちになってしまったぴーは、最初にここへ来たときのようにしばらくぴーぴー鳴いていましたが、次第に声が枯れてしまい、鳴きつかれて寝てしまいました。
次の日からぴーは、渡り鳥に言われたとおり一生懸命に薬草を食べました。食べられるだけ食べました。次の日もその次の日も薬草を食べました。気が付くとぴーはブクブクに太ってしまい、もう飛べないほどの重たい体になっていました。それでもぴーは一生懸命に薬草を食べました。月日はたち、冬がやってきました。とても寒い寒い冬でした。
ぴーがいつものように薬草を食べていると、そこへ痩せっぽちのハラペコ狼がやってきました。「ああ、お腹が空いて死にそうだ。ここ3日間も何も食べていないんだ。」それを聞いたぴーは、狼の前へヨチヨチと歩いていって、こう言いました。「どうぞ私を食べてください。私はそのためにここであなたを待っていたのです。」
狼は「おお!ありがたい。お言葉に甘えていただくよ。」そう言って狼は、ぴーを食べました。ぴーはとても幸せでした。
単純に見えて、実は本当にいろいろな要素が含まれている童話なのだ。いろいろと私の深層心理を推し量っていただければ幸いである。
原文となった日記を削除してしまったので、ここへ書き残しておく。
私も、昔から文章を書くのが好きで、漠然と「作家になりたいなー」と思ったりした事もあった。「作家になれば?」と言われるたびに有頂天になった事もあった。でも本気で目指している方々を見ると、適当にそんな事思っちゃいけないなと、恥ずかしく思う。
ところで、例の番組「ドキュメント”考える” 『ベストセラー作家 石田衣良の場合』」のミッション
であるが、mixiでは「それと同じ課題を書いてみよう」というBBSが立ち上がっていた。興味を持って作品をながめていたのだが・・・申し訳ないが、あまり心を打つ作品はなかった。もしかしたら作品を投稿された方々は、本気で自殺を考えた事がないのかなと思った。「童話」というフレーズに縛られすぎて、キレイ事の話が多いと思った。自殺願望を持つ少女が自殺をやめたくなるような童話を作れ
(番組ではさらに「ガチョウ」「光学」「草書」という言葉を含めよという追加指令もあった)
「自殺願望を持つ少女」がいるとすれば、その子は自分なりに散々悩んで、自分が知る限りの知識の中には解決方法が一つもなく、現実世界に絶望しているのだ。そこへ頑張れば夢は叶うとか言われても、余計にその子を傷つけてしまうであろう。かと言って空想的なイイ話を持ってきても、おそらく自殺願望は止まらないであろう。そういう夢のような童話は、まだ「死のうと思ったことのない」子供に「死のうと思わせないため」に読ませる本であって、もう「死のうと思ってしまった」子供の心には、たぶん響かないのだ。
それは私が、死のうと思ったことがあるから言える事である。死にたい子に必要なものは、生きる意味である。生きる希望である。どうやってそれを教えてあげればいいのだろうか。
例えば私だったら、リストラされたヨボヨボのおじさんを主人公にする。光学レンズ磨きの職人だ。コツコツと単調な仕事をマジメに一生懸命やってきたおじさんも、時の流れとともに機械に仕事を奪われて、「お前はもう必要ない。」と言われてしまった事にしよう。「早く出て行け。」と石を投げられ、罵られ、仕事場を追い出されてしまった事にしよう。
仕事一筋だったおじさんには身よりもない。生活費もない。病気も患っている。おじさんは漠然と、自分の役割は終わったと思うだろう。こうして生きる意味を見失ってしまったおじさんはふと、もういいや、死んでしまおうと思ったとしよう。
ははは。全然童話じゃないではないか。しかもこれじゃあ、中高年の自殺は止まるかもしれないけれど、少女の自殺は止まらなさそう。文章を書くのって、やっぱり難しい。いつしかおじさんは、小さい頃よく遊んだ「底なし沼」にたどりついた。ここなら死ねるだろうか。
そこへ、死後の世界から生まれ変わったばかりのガチョウが現れた。ガチョウは前世で悪い事をしたために、飛べない鳥にされてしまったのだ。でも、「オイラはまだマシだ。命をもらって嬉しいよ。」とガチョウは言う。
なぜならあの世には、生まれ変われずに苦しんでいる友がいるからだ。それは首を吊って自分で死んでしまった友だ。
神様はその友をオイオイ泣きながら叱ったという。「お前はなんと愚かな事をしたのだ。お前の悩みはあと1週間で解決されたのに。それにお前の本当の役目はこれからだったのに。」
それを聞いた友もオイオイ泣いたと言う。「早く知らせてくれれば、ボクだって死ななかったのに。どうかボクを元の世界に戻してください。」でもそれはできない決まりだった。自殺はこの世で一番悪い事なのだ。
友は今でもオイオイ泣いている。たぶんこのまま、宇宙がなくなるまでオイオイ泣き続けるのだろう。あの世には、そんなオイオイ泣いている人がゴロゴロいるという。オイオイオイオイうるさくて、夜も眠れないという。
おじさんは、「それはかわいそうに。」とつぶやく。「でもいい。それでもいい。私はもう疲れたんだ。生まれ変わらなくたっていいんだよ。」とガチョウに言う。
「バカだな。」ガチョウはしゃがれ声でおじさんに言った。「あんたはどれだけ自分が幸せなのかわかってないのかい?オイラからしてみたら人間のあんたが羨ましくて仕方がないよ。」
けれども、おじさんは悲しそうに笑うだけだった。
ガチョウは少し考えていたが、やがて首をプルプルっと振るとこう言った。「本当は言っちゃいけないって言われてたんだけど、あんたにだけは教えてやるよ。あんたはまだ死神の予定に入ってないんだよ。ってことはだよ。あんたの役目はまだ終わっちゃいないってことだ。急いで家に帰って郵便箱をのぞいてみな。」
そしてガチョウはため息をついた。「やれやれ。またオイラは神様との約束をやぶっちまった。次は蛇にでもなるのかな。」
おじさんは、もう役目とかそんな事はどうでもよかったのだが、ガチョウが「さあ、帰った帰った!」とあんまりせかすので、しぶしぶ家に戻ってみた。
郵便箱をのぞくと、そこには1枚のハガキがあった。さらさらとした流れるような草書に、おじさんは見覚えがあった。それは初恋の人の字だった。おじさんが若い頃、青春時代を一緒に過ごし、戦争のゴタゴタで行方知れずになってしまった、あの懐かしい人からの突然のハガキだった。
「突然の手紙をお許しください。私はガンで先生からあと1ヶ月の命だといわれました。覚悟はできています。死ぬことは怖くありません。でもたった一つだけ悔やんでも悔やみきれない事があります。本当にご迷惑だとは思いますが、最期にあなたに会って謝らなければ・・・」
おじさんは涙で続きが読めなかった。まだこの世の中に、自分を必要としてくれている人がいたなんて。自分に会いたいと言ってくれている人がいたなんて。その人に謝らなければならないのは自分の方だった。おじさんには、まだやり残していることがたくさんあった。
おじさんは、ありったけの小銭をかき集め、庭に咲いていた一輪の花をつんで、家を飛び出した。神様に「どうかあのガチョウに罰を与えないでください。」と祈りながら。
(キキョウの花言葉=やさしい愛情、誠実、変わらぬ愛)