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貧困は自己責任か
2008.03.03 Mon 11:57 | ドキュメンタリー | テレビ・ラジオ
 昨日、「貧困」という言葉が気になって、「ハートをつなごう(1)」という番組の再放送を見た。

年収200万円以下の世帯数が1000万を突破。4世帯に1世帯は貯蓄がゼロ。若年層の2人に1人は非正規雇用。格差が広がる中で「貧困」に陥る人が増えている。なぜ貧困へと追い詰められるのか? 貧しさは自己責任なのか? なぜ努力してもなかなか抜け出せないのか?
(NHK番組案内より(本放送は2/25(月)))

 前にも、このブログで取り上げたことのある、NPO法人「もやい」事務局長の湯浅誠氏は、「貧困」についてこう語る。

 お金がないのももちろん、頼れる人間関係が切れちゃう。例えばフリーターで収入が少なくても、実家に住んでて親御さんがちゃんと稼いできてくれたら、冷蔵庫あけたらなんか食べるものはあるじゃないですか。だから収入10万ぐらいでも、今日明日の生活に困るってわけじゃない。そういう意味で、そういう人間関係の豊かさみたいな、私は「ため」とか呼んでるんですけど、そういう「ため」がない状態。
 あとは前向きになれないというか、自信が持てないと言うか、こういうのも精神的な「ため」がなくなっていくっていうことだと思うんですよね。そういう総合的な概念を「貧困」と呼んでいます。


 番組では元ホームレスの鈴木武志さん(19歳)を取材していた。
 鈴木さんは、幼い頃親と離れ離れになり身寄りがない。おととしの夏まで里親に育てられていたのだが、ある日突然、「もう一緒に住むことはできない」と告げられて、福祉施設に移らざるをえなくなった。だがその施設でも、18歳になったら出て行って欲しいと言われた。
 鈴木さんは、郵便配達の仕事をして30万を貯金。施設を出てアパートを借りた。それからコンビニのアルバイトをしながら一人暮らしを始め、彼女もできた。しかし、やっとそんな新しい生活が始まろうとしていた矢先に、高校時代の知り合いだった札付きの不良につかまってしまう。部屋に居座られ執拗に恐喝され続けた。
 荷物を持って夜逃げするように家を出た鈴木さんは、その瞬間、友達も親も彼女も居場所もなくなったのだ。公園や漫画喫茶で寝泊りする生活に落ち、所持金はすぐになくなった。
 未成年で親もいない。身分を証明する者もいない。仕事はみつからない。鈴木さんを助けてくれる人は誰もいなかった。「結局は自己責任で死んでいくのかな。」そんな事を思いながら、公園などを転々とする生活を続けていたとき、ようやくNPOに保護されたのだった。

 鈴木さんは悪くない。何も悪くないのに、一度「貧困」に落ちた若者は、二度と自分の力では立ち上がれなくなってしまうのだ。精神的にも泥沼に陥ってしまうのだ。鈴木さんは当時の心境をこう語る。

 俺のせいじゃないのに彼女も俺から遠ざかっていく。はめられた人っていうのは、周りがみんな遠ざかっていくって、自暴自棄になりました。救ってくれる人はいないんだ。
 街で寝てても誰も声かけてくれなかったし、警察なんて家がなくて2回も捕まってるのに2回とも”生活保護”を教えてくれなくて、「住み込み就職しないからホームレスなんだよ。」みたいに言われて。具合が悪くなって街中で倒れて救急車呼んでもらって、病院の人にいったら、病院の人も「うちは泊めておくことはできないから、とりあえずいろいろあるかもしれないけど頑張って。」とか言われて。施設にもう一回入れてくれって言いに行ったら「管轄があるからできない。」って言われて。
 そこから視点が変わってきましたね。子供も大人もはめるやつははめるし、自分がよければOKなんだなあっていうのが社会なんだなあとか思いましたね。

そして次第にその感情は、恨みから怒りに変わっていく。

 自分もそうやっていかないと、たぶん生きていけないんだなあと思いましたね。つぶすかつぶされるかだと思いました。だったら俺今つぶされているから、つぶす側に回ろうとおもって・・・。

だが、鈴木さんは人をだまして生きるほど落ちぶれることはできなかった。

 いま、鈴木さんは、元の福祉施設職員の紹介でたどりついたNPO法人「もやい」の冨樫匡孝さんに出会い、相談にのってもらいながら生活を立て直す手助けをしてもらっている。生活保護の申請をすれば、アパートを借りるときに必要な一時金が借りられる事がわかった。連帯保証人は「もやい」が引き受けてくれたおかげで、鈴木さんは一人暮らしをする事ができた。さらに病院にかかることもできるようになり、鈴木さんが抱えている心の病もわかった。
 まだ焦って働く必要はない。今の鈴木さんに必要なことは、衝動を抑えられるようになること、心の傷を治すことだと、冨樫さんは考えているそうだ。

 私は、「その頃の孤独感はどうだった?」と聞かれた鈴木さんの言葉にショックを受けた。

 孤独感はいつしか消えました。誰もいなくなった瞬間にもう孤独で、そのときはすごい最大のショックだったけど。自分のせいではないのに、じゃあ誰のせいだ?社会のせいだ、って僕は思ったんです。で、いつしか孤独というよりも、明日生きるか死ぬかみたいなそういう考えになりました。
 「今日このまま夜寝たら、明日の朝もし起きれたら、それは神様が生きろと言っているんだなあ、よしっ。」 そんな感じでしたね。


 私は今の自分を恥じた。屋根も食料もある暖かい家の中で、羽毛布団にくるまりながら「今日このまま夜寝たら、明日の朝二度と起きませんように。」と祈っている私を恥じた。鈴木さんに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。こんな私はぜいたく病なのだろうか。私のような人間こそ、地に落ちてしまえばいいのに。
 鈴木さんが「自己責任で死んでいくのかな。」と思ってしまったのは、別に自分で自分を痛めつけて死にたいと思ったわけではないのだ。彼は私みたいに、そんな弱虫ではない。頼るところもない彼なのに、周りの大人たちによってたかって「住み込み就職しないからそうなるんだ。」と言われ、じゃあ僕が悪いのかなって、自己責任なのかなって思わざるを得なかっただけなのだ。周りの大人たちの責任逃れのはけ口になっていただけだったのだ。
 私には家族もいて、頼る人もいて、環境は何も不自由ないのに、誰も何も押し付けないのに、勝手に何もできない自分が悪いって思いこんでる。変なの。私って変なの。本当に私ってバカだ。そして、なんでこうなるのかわからない。それが病気なのかどうかも、もはやわからない。

 ちなみに私は「もやい」のサポーター会員なので、こういった活動で救われる人をテレビで見ると、少しだけうれしい。所詮自己満足で、偽善で、自分の手は何一つ動かしていないけれど、でもうれしい。
 この回の再放送は2008/3/3(月)13:20~。第2夜は2008/3/4(火)13:20~。

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