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掃除をさぼる理由
2008.03.13 Thu 10:34 | エッセイ | 小説・文学
 今日は午後から、配水管清掃の業者さんが家に来るというので、憂鬱である。一ヶ月前にお知らせの紙がきたときから憂鬱だったのだが、ここへきて憂鬱はピークに達した。

 私の唯一の安らぎの場所である家の中に、見知らぬ他人が入るのだ。しかも水周りと言ったら女の命。汚い水周りを他人に見られるのは、化粧をしていない素顔を見られるより恥ずかしい。でも私には、掃除をする気力がない。一ヶ月間、葛藤をくりかえしては見てみぬふりをしてきたこの日が、ついにやってきた。

 それにしても、私の世間体を気にする体質にもほどがある。彼にも言われた。「別に汚くたって誰もなんとも思わないよ。」水周りを一番汚している張本人に言われて無性に腹が立ったが、それ以前に、私の中の何かが「いやいや。きれいでなければ恥ずかしい。」と、彼の言葉を受け付けない。
 小さいころから、母親がよく言っていた。「トイレを見れば、その家の程度がわかる。」と。トイレをきれいにしているかしていないかで、その家の女性が掃除をきちんとしているかしていないかがわかるのだと言う。プロの主婦が言うのだから、間違いはないのだろう。そう思って育ってきた。

 とは言え私も、頭の中では、『世間体を保つために掃除をする』のはおかしい事だと、わかってはいる。そもそも掃除はなんのため?そんな自問自答を繰り返す。
 そういう時に、必ず思い出すのが、俳優の中尾彬さんの言葉だ。

俺は女房に、家でこそ化粧をしていろと言ってますよ。俺の前できれいでいろと。魚屋のオヤジに一番きれいな顔をみせてどうするんだ。

こんなような意味の事を言っておられた。奥さんは、女優の池波志乃さん。さぞかし艶っぽいご夫婦なのだろう。ドラマのような晩酌シーンが、実際に毎晩行われているのだろうか。

 これは極端な例だと思うが、正論なのである。順番がちがうだろうと。一番大切な場面で努力を怠って、つまらない”世間体”のためだけに全身全霊をささげる。普通に考えたらおかしな事なのだ。わかってはいる。わかってはいるがやめられない。
 じゃあ逆にスッピンで外を出歩いて、「あの奥さん、ほんと身なりに構わない人よね。眉毛ぐらい描けばいいのに。」と街の噂になってもいいんですか?という話になる。男性は「別に構わないよ。」と言うかもしれない。だが、女性はそうはいかないのだ。一体これは何なんだ。考えてもわからない。そんな事を考えている時間があったら掃除をしろと思うが、理由がわからなくて掃除もできない。

 今日唯一の救いは、業者さんがたぶん男性だということ。目の肥えた女性でなくてよかった。汚い水周りを女性に見せて、ニヤニヤされる事ほど嫌なことはない。
 ・・・と書いていたら、ああ、わかった。つまり、女の敵は女なのだ。お化粧だって、魚屋のおじさんにきれいな顔を見せたいわけではない。近所の奥さんたちに、変なところを見せたくないのだ。あわよくば、勝ちたいのだ。

 ということで、今日の掃除はホドホドでいいや。

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