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痛みもかゆみも
2008.03.16 Sun 10:54 | 心と身体 | 心と身体
 昨日見た「解体新ショー」は『痛み』と『かゆみ』に関する不思議を解体するものであった。どちらも、体の異常を脳が認知して起こる感覚であり、面白いことにその対策法も、最近では脳をどう制御するかという領域の研究が進んでいるらしい。もはや体の問題というよりは心の問題のような話であった。

 私は昔、全身にひどいかゆみをともなった湿疹ができたことがあった。あまりのかゆさに気が狂いそうになり、そのうち体を傷つけ始めたことを覚えている。痛みならいくらでも我慢できる自信があったが、かゆみだけはどうしても我慢できなかったのだ。そんな心の意味もわかるような番組であった。

痛みについて

 まず痛みはなぜ起こるのか。体の一部に刺激が加わると、その痛みは、抹消神経から中枢神経へと、神経伝達物質によって脳に伝えられる。
 ところがその時、「いたいのいたいの、とんでけ~」とナデナデされると痛みが和らぐことがある。これにはきちんとした理由があり、臨床発達心理士の山口創先生によれば、それは『ゲート・コントロール』という理論なのだそうだ。ナデたりさすったりされると、その刺激は別の神経を通って脳に伝わる。すると脳はセロトニンという物質を放出する。セロトニンは、うつ病の私にはおなじみの脳内物質。ドーパミン(喜び、快楽)、ノルアドレナリン(恐れ、驚き)などの情報をコントロールして精神を安定させる作用があり、これが不足するとうつ病になるといわれている、私にとって非常に大切な物質だ。
 このセロトニンには、末梢神経と中枢神経の間の門(ゲート)を閉じて、痛みの信号をブロックする働きがあるというのだ。それが『ゲート・コントロール』。したがって、痛みの周りを色々な方向から触ってなでることにより、痛みが飛んでいくのは本当の事なのだという。

 もうひとつ、貴重な話を聞いた。リハビリテーションが専門の小山哲男先生は、脳科学の分野から痛みを取り除く研究を続けてきた。患者さんの中には、小さな刺激でも非常に痛がる人がいる。表現が大げさなだけなんじゃないかとも思われたが、どうやら本当に痛いらしい。
 先生は、こうした”痛みの個人差”を知るべく、さまざまな強さの刺激(痛み)を被験者に与えて脳の反応を調べる実験をした。そのとき同時に、刺激の強さに応じたパターンの信号音を聞かせつづけた。すると、そうした体験を繰り返した被験者の脳は、実際には弱い刺激しか与えていなくても、強い刺激のパターンの音を聞いた時に強い痛みを感じる傾向が見られたという。

心の痛みと体の痛みは、そんなに単純に分かれるものではない。ただ、思い込みが極端に強い場合には、ほんとに全身全霊をかけて、痛みのことを考えて受け止めることが必要になってくると思います。
痛がる人は、その痛みをわかってほしいとすごく思っている。今までは痛がるけど仕方ないと思われていたが、痛がるその人の心を治療する医療がやっと注目されてきました。

小山先生は、『痛み対策は、まず痛みを理解してあげること。』と言う。心の痛みも体の痛みもおんなじだ。

かゆみについて

 まずかゆみはなぜ起こるのか。皮膚には『表皮』の下に『真皮』がある。かゆみの神経は、本来真皮の範囲にある。しかし表皮が水分を失ってかさかさになると、表皮から真皮にむかって神経成長因子が放出され、かゆみの神経が皮膚の表面まで伸びてきてしまう。そうすると、外からの刺激に対して敏感になるのだ。これがかゆみの原因だ。

 しかし”掻く”ことは、すなわち皮膚にダメージを与える行為。なぜ人間はそんな事をするのだろう?実は”掻く”という動作は、専門家でさえよくわかっていないのだという。一番有力な説は、皮膚の寄生虫に対する防御機能、つまり寄生虫を肌から掻き出すという動作なのではないかという説だそうだ。なんだか生々しい。

 生理科学の柿木隆介先生は、かゆみはかゆい場所の問題だけではないと、脳に注目したかゆみの研究を続けてきた。
 被験者の右手首に弱い電流(かゆみ)を流して、脳の反応を調べる実験をした。電流をながすと、脳波が乱れて変化が大きくなる。このかゆみをおさめるには何が有効か、いろいろな対策で脳波を調べた結果、その脳波の揺れ幅は以下のように変化した。
  • 何もしない状態 100%
  • かゆいところの近くをゴシゴシこする 20%
  • 冷たい氷枕をあてる 5%
 どうやら患部を冷やすのが効果的らしい。しかし、これだと、冷やすのをやめて温度が上がったときにぶり返しが来て、よけいにかゆくなると先生は言う。

 実験では、さらに反対側の手に氷枕をあてていた。
  • 反対側の手に冷たい氷枕をあてる 26%
なんと、かゆみと関係のない場所を冷やすことで、かゆみがおさまる傾向にあることがわかった。この現象を『広汎性侵害抑制調節』というそうだ。冷やす場所はどこでもいいのだと言う。
 刺激が体の色々なところに同時に与えられた場合、それを全部感じると脳がパニックを起こしてしまうので、こういうときにはすごく重要な刺激だけを感じるように調節する機構が脳にはあるのだそうだ。たとえば、骨折、虫刺され、虫歯、水虫、などが同時に発生したら、骨折の痛みしか感じないようになる、などの例が挙げられていた。

 なるほど。脳は刺激に対するハードルを調節して上げることができるのだ。
 悩みやストレスもそうなのかな。番組を見ていたらそんな事を思った。私には、今さしあたって大きな悩みがないから、小さなことをいつまでもクヨクヨ考えつぶしているような気がする。もっと深刻な、生命に関わる悩みでも起こったら、悩みに対するハードルがあがって、「生きる意味ってなに?」とかつまらない事は考えないのかもしれない。
 若いうちの苦労は買ってでもしろ、ってことかな。まあ、病気が治ってからにしよう。そうやって今日も逃げる私であった。

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