今日書いておかなければいけないのは、昨日、タイヤ直撃事故でなくなられたバス運転手の関谷定男さん(57)のことだ。

 関谷さんは、1984年に名阪近鉄バスに入社した勤続25年のベテラン。これまで無事故無違反で、所属する大垣営業所の運転手47人の中では、4人しかいない「師範運転手」の肩書を持っていたそうだ。
 そして何のいたずらか、悲しいことに事故当日はなんと57回目の誕生日。ツアー出発前の午前7時すぎ、同僚運転手やバスガイドらから「おめでとう」と声をかけられ、プレゼントを受け取ったばかりだったという。

 私がこのニュースでとにかく驚いたのは、この事故が大惨事にならなかったことだ。高速道路で、しかも追越車線を走っているバスにタイヤが直撃したというのに、死者は運転手の関谷さんただ一人。現場の映像を見ると、まるで何もなかったかのようにバスが一番右側の車線にまっすぐにポツンと止まっていた。
 横転することもなく他の車を巻き込むこともなく、静かにたたずむバスに、私はタイヤが直撃する寸前の運転手さんの咄嗟の行動はいかばかりだったかと考えた。わずか数秒の間に、おそらく極限の集中力でスローモーションになっているだろう瞬間(ZONE状態?)に、関谷さんは何を思ったのか。

 今朝になって出てきたニュース記事に、私はさらに驚いた。バスの乗客たちの証言:

「(バスは急に止まることはなく)スーッと停車した。」
「バスガイドさんが慌ててサイドブレーキを引こうとしたら、すでにブレーキは引いてあった。」
asahi.comより)

名阪近鉄バスの幹部の方は話したそうだ。

県警の人が『あの状況でよくブレーキを引いた』と言っていた。運転手は、意識があるかないかの状況のなか、タイヤの衝突地点から200メートル以内で車を止めたらしい。
asahi.comより)

また別の報道によれば

バスは数秒間、60メートル以上走って静かに停止。関谷さんはタイヤに直撃されながら、足はブレーキペダル上にあり、無意識のうちブレーキを踏んだとみられる。
YOMIURI ONLINEより)


 なんと関谷さんは、びっくりして急ハンドルを切ったりせず、ブレーキペダルに右足を、サイドブレーキを握りしめた状態で亡くなっていたのだという。そのとき意識はあったのだろうか。咄嗟の判断で乗客を守ろうとしたのだろうか。そして記事には、それを裏付ける上司や同僚の話があった。

「雨の日はバスガイドに頼らず、自分から客に傘を差し出すなど気配りのある人だった。」
毎日jpより)
「とにかく面倒見のよい人で、常にお客さんのことを考えていた。時間があるなら少しでも景色のよいところを、とルートを考えたりしていた。」
asahi.comより)

この証言を聞いて私は思った。関谷さんは、普段から他の人のことを一番に考えるような、とても思いやりのある方だったのだろう。いざというときに、無意識のうちに出る行動。そこにその人の本当の人間性が出るような気がした。
 と同時に、私はいざと言うときに何をする人間なのだろうかと不安に思った。

 関谷運転手のご冥福をお祈りいたします。


タイヤ直撃事故 ボルトすべて破断、一部は以前から?(asahi.com)
東名バス事故:運転手死亡 脱輪トラック、整備不良の疑い(毎日jp)
脱落タイヤのバス直撃死亡、トラック車軸ボルト全8本破断(YOMIURI ONLINE)
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