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荻野選手のリベンジ
2008.06.13 Fri 13:14 | ドキュメンタリー | テレビ・ラジオ
 昨夜放送していた「バース・デイ」は、『日本男子バレー北京五輪最終予選に密着!』であった。

 6月7日、日本男子バレー”植田JAPAN”が、北京五輪最終予選「日本vs アルゼンチン戦」で勝利し、16年ぶりにオリンピックの出場を決めた。日本中がテレビに釘付けになり、歓喜の瞬間を感動で迎えたことだろう。

 このチームのキャプテン荻野正二選手(38)は、1992年のバルセロナ五輪当時、22歳で若手のホープとして大活躍をしていた選手であった。しかしバルセロナの4年後、荻野選手たちの世代が中心となったアトランタ五輪予選で、日本男子バレーはまさかの予選敗退という結果に終わってしまった。東京オリンピックから7大会連続出場という栄光の歴史を、荻野選手たちが途絶えさせてしまったのだ。

日本の男子バレーは(オリンピックに)行くもんだろうと思ってたし、国民も、僕らも絶対行けるって言うか、行かなきゃいけないと思ってたし、悔やんでも悔やみきれないですよね。

そう語る荻野選手は、人知れず責任を感じていたようだ。
 しかし、それからの荻野選手は、監督との衝突や、たび重なる怪我に見舞われ、日本代表に召集されることはなかった。その間の男子バレーは、2000年シドニー、2004年アテネと、3大会連続予選敗退という屈辱の時代を歩んでいた。

 2005年、北京五輪に向けて”植田JAPAN”発足。メンバーの発表を聞いて誰もが驚いた。植田監督は、当時35歳の荻野選手を召集し、キャプテンに指名したのだ。植田監督と荻野選手は、バルセロナオリンピックで共に戦った仲間だったという。
 植田監督は、メンバーと最初に顔を合わせた時に、こう言った。

本当にチームっていうのは一つにならないと絶対に勝てないから。俺が決めてるのは、荻野、お前はもうキャプテンとして絶対。俺はお前と心中しようと思う。なんでかっていうと、当然、お前とは心中できる立場だから。

若手中心の日本メンバーにとって、荻野選手の経験がきっとプラスになると、そして荻野選手は必ずそれに答えてくれると信じていたのだ。
 植田監督は、練習中も誰よりもあえて荻野選手追い込んだ。容赦なく強烈なスパイクを38歳の荻野選手に打ち込んでゆく。コートを転げまわり、這いつくばって歩く荻野選手。それは決して格好のいいものではなかった。
 けれども若い選手たちの意識は、次第に変わっていったという。

荻野さんがあんだけ頑張ってるんだから、僕ももっと頑張らなくちゃいけないなっていうのはありますね。
荻野さんがいるっていうだけで、みんなが荻野さんを見て動いてる気がするんですよね。

荻野選手も、最後の五輪となるであろう北京五輪には、並々ならぬ思いがあったようだ。

オリンピックに行けなくしたのも僕らの世代の人間だし、そのリベンジを果たすのはこの北京オリンピックしかないし。


 そして、16年ぶりのオリンピックまであと1勝となった6月7日のアルゼンチン戦は、フルセットまでもつれた。ようやく日本がマッチポイントを迎えたとき、セッターの朝長選手は、前から決めていたことを実行した。

最後のパスは絶対に荻野さんに上げる!

この思いが乗ったトスを、荻野選手は渾身の力で叩いた。ボールはアルゼンチンの3枚ブロックを跳ね飛ばし、ブロックアウト。その瞬間、植田監督はコートへと倒れこんだ。

 試合後、涙が止まらない荻野選手に、インタビュアーが聞く。

Q.今の気持ちはどうですか?
─嬉しいです。やってて良かったです。
Q.ここまでの厳しい練習に耐えてきました。この3年半苦しかったですか?
─すごい厳しくて、こんなキャプテンに選手たちがついてきてくれて、本当に感謝します。ありがとう。

観客席からはやまないオギノコール。選手たちからも拍手が上がった。



 大げさかもしれないが、私はこの感動ストーリーに、現代の日本国民がもう一度思い出さなければならない、日本人の美学のようなものを見た。

 過去の栄光を知る世代は、「昔はよかった・・・」とか「今の若者は・・・」と文句ばかり言っていてはいけないのである。「自分たちは十分苦労したんだから、もう楽させてよ」とあぐらをかいていてはいけないのである。もう一度腕まくりをしてリベンジしている姿を、次の世代に見せてあげなくてはいけないのである。

 そして過去の栄光を知らない世代は、「今は時代がちがうんだ」とか「どうせ将来は真っ暗だよ」と文句ばかり言っていてはいけないのである。「大人が悪いから、こんな社会になったんだよ」と悲嘆にくれてばかりではいけないのである。歴史を学び、先人たちの偉業に敬意を払い、今は年老いた先人たちの背中を見て、自ら何かを学ばなくてはいけないのである。

 そんな事を思った。

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