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たったひとりの反乱
2008.07.31 Thu 01:55 | ドキュメンタリー | テレビ・ラジオ
 『たったひとりの反乱「食品偽装告発、“さきがけ”となった男」』 というドキュメンタリーを見た。

 飛騨牛、ウナギ、船場吉兆……このところ続々と噴き出す「食品偽装事件」。その多くが、内部からの通報・告発をきっかけに発覚した。いまから6年前、その “さきがけ”とも言える事件が世間を賑わせた。BSE騒ぎのさなか、輸入肉を国産肉と偽った、雪印食品による牛肉偽装事件である。
 冷蔵倉庫会社の社長・水谷洋一氏が、実名で告発したことで不正は明らかになった。当時、水谷氏は、「内部告発を行ったヒーロー」として、一躍マスコミの脚光を浴びた。だが、その後、水谷氏も、周囲の人々も、思いもよらない過酷な運命に翻弄されることになった。

(番組ホームページより)


 西宮冷蔵の水谷洋一社長は、初めて従業員の一人から偽装の事実を聞かされたとき、思ったそうだ。

 まず最初に頭をよぎったのは、『お得意先を擁護しなければいけない、守ってあげなければいけない』という観念だったですね。

というのも雪印食品は、阪神淡路大震災のとき、100社ある得意先の中ただ1社だけ、東京の若手3-4人を 『自分の従業員だと思って使ってくれ。』 と西宮冷蔵に派遣してくれた、尊敬すべき会社だったのだという。
 だからこそ、社長は雪印食品に何度も忠告をしたという。『”調べたらうっかりミスによって輸入肉がまじっていることが今わかりました”って金を国に返せば、事なきを得るはずや。』 『ここはちゃんと処理しといたほうがええ思いまっせ。』
 けれども、大企業の雪印食品は、零細企業の一社長が言うことなど耳も貸さなかったという。そればかりか 『輸入肉のダンボールそっちでうまく処分してよ。』 などと後始末を押し付けてくるありさま。

 偽装工作からおよそ3ヶ月、とうとう水谷社長は心を決めた。『下請け扱いするのもいいかげんにせえよ!』 社長は従業員をあつめて言った。

 本来取引先を守るのがスジや。だから何度も警告した。けど踏みにじられた。もうあかん。俺は雪印食品を告発しようと思う。

そして2002年1月22日、水谷社長は新聞記者に偽装の事実を実名で告発。雪印食品は、結局2002年4月解散に追い込まれるという大事件になった。勇気ある告発者としてマスコミの脚光を浴び、一躍時の人となった水谷社長に、『社長が一人で大企業に勝ったで!』 と社員たちも大喜びだった。

 ところがそれから、社長も”想像のつかなかった”事態がおこる。倉庫法違反による7日間の営業停止命令。雪印食品以外の取引先がすべて撤収。その結果、告発からおよそ10ヶ月後の2002年11月末日をもって、西宮冷蔵は廃業となってしまったのだった。社長は従業員を集めて土下座をしたという。『みんな俺と一緒によう戦ってくれた。ほんまに感謝のきもちでいっぱいや。おおきに。』

 従業員だった息子と2人、日雇いでもして暮らしていこうかと思っていた水谷社長に、”再建”の勇気をくれたのは、雪印食品の元従業員・川瀬二見さんという女性だった。突然たずねてきて、『ぜひ会社を再建してください。お願いします。』 と頭を下げたという。川瀬さんは当時を思い出して言った。

 複雑な気持ちもありました。けどね、でもやっぱりこの人が一番悪人ではないんだという、その思いは私はずっと思ってましたからね。だからやっぱり西宮冷蔵の会社も、荷物もだんだん減っていって空っぽになってしまったという・・・、告白者をどうして世間はね、さらに追い討ちをかけていじめるのかなっていう、その理不尽なことのほうが私は気の毒というかね。

その約束を胸に水谷社長親子は、2003年夏から『まけんで!!西宮冷蔵』という旗を持って、大阪の梅田歩道橋に座り込み、カンパを募る活動を始めた。活動は寒い冬も続き、それがマスコミに報道されると全国からカンパが集まり始めたそうだ。

 告発から2年余たった2004年3月、西宮冷蔵はようやく再開できることになった。『社長!水臭いやないですか!』 『また雇ってもらえますよね?』 一度は解雇した社員が7人、社長のもとに戻ってきてくれたそうだ。
 現在、ようやく半分以上の荷物で埋まってきた倉庫を背中に、現在の水谷社長は力強くこう言った。

決して焦らずに、大地にしっかりと足踏みしめて、やがていつの日か満杯にしてみせます!

この人だから、社員はついていくんだろうなあと思った。

 『正しいことしたんやろ?』 と、父親をまったく責めなかった息子の水谷甲太郎さんは、現在は専務として現場をとりしきっているそうだ。『もし将来また同じような事が起こったらどうしますか?』 との問いに、甲太郎さんは 『うーん』 と少し考えてからこう答えた。

 簡単に告発しますということはまずないですね。告発するって言うのは相手もそうですし、自分も身を削ることになりますし、まぁそれは今回の事件でわかったし。とにかくやめさす努力をして、何回も何回も言って、それでもまったくこちらの言うことを聞いてくれない、弱い立場につけこんでくるってなったら、そのとき考えたいですね。
 それも親父と一緒で、自分で決めたいと思いますね、人に相談せず。はい。

結局、お父さんと同じ事をするという事なのだろう。お父さんの背中を見て育った甲太郎さんは、きっと立派な社長になるであろうと期待する。

 一人の勇気ある決断と、それを支える周りの人々がいなければ、現在の数々の偽装事件が公になることはなかったかもしれない。悪しき習慣、組織ぐるみの隠蔽、大企業の圧力、そんなものに”正しい人”が潰されていくのはもうたくさんだ。だが、私には勇気がなくて 『内部告発』 はできなかった。自分さえ我慢すればすむことだと思っていた。
 水谷社長には、本当に本当に敬意を払いたい。

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